FE考察〜魔王ガーネフの目的

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 今回はゲーム中の悪を一身に引き受けたファイアーエムブレム屈指の名悪役である魔王ガーネフについて考察する。ファイアーエムブレム暗黒竜と光の剣および紋章の謎はマルスを主役としたマルス視点の物語、あるいは勝者の歴史なので特に敵役であるガーネフやメディウス、ハーディンの実像は隠されがち。今回は断片的な情報をつなぎ合わせてガーネフの実像に迫っていきたい。

【その足跡〜】
 箇条書きにして、ざっと整理する。
・大賢者ガトーの弟子としてカダインにて魔道を学ぶ。
・ガトーが後継者の証であるオーラを兄弟弟子のミロアに与える。
・闇のオーブからマフーの魔法を生み出す。
・魔道都市カダインの実権を掌握しドルーアと組んで暗黒戦争を始める。
・マケドニアのミシェイル王子を調略し父王を暗殺させマケドニアを同盟に組み込む。
・神竜チキを術にかけ操り、ラーマン寺院を守らせる。(オーブの守護)
・グラ王ジオルを調略しアリティア王コーネリアスを滅ぼさせた。
・コーネリアスが所持していた神剣ファルシオンを持ち去る。
・アリティア落城の際にエリスを捕える。
・アカネイアパレス攻略の際、最高司祭ミロアを自ら殺害。
・カダイン郊外にてマルス軍と交戦。マフーの力で無傷ながら早々に撤退。
・テーベにてマルス軍と交戦。スターライトの魔法により戦死。

 ガーネフの目的はゲーム中の台詞だけではよく分からない(マルス王朝の都合で書き換えられた可能性すらある)ところがあるが、その行動と突き合わせることで目的を探ることは可能だ。全ての行動には目的や理由があるのだから。

【ガーネフの人物像】
 ガーネフの人となりはというと、メディウスとは利害関係で繋がっているもののマフーやファルシオンを所持していて敵対関係になる可能性も隠してはおらず、互いに信用していないのは明らかだ。
 ガーネフが関わったマケドニアやグラに対してはおそらく目的を達した後は放置している可能性が高い。ジオルはガーネフからもドルーアからも梯子を外されたような状態だったし、マケドニアはガトーが残っているところを見ると、父王暗殺のその一瞬のみ関わったのではないかと考えられる。

 結果的に失脚したが一時期カダインを掌握していてテーベまで付き従う者がいたことから、慕う弟子や部下は一定数は存在したのだろう。その博識を尊敬したのかもしれないし、厳格で公正さがあったのかもしれないし、同じような野心的な魔道士はそこに乗っかったのかもしれないし、案外身内には優しかったのかもしれない。一匹オオカミ的に暗躍しているイメージが強いが、それは味方を集める力のあるマルスの王道との対比によるもので、決してそこまで孤独ではなかったのではと考えている。

 ここまでを総合するとガーネフは身内に厚く対外的には薄い人間関係だといえる。カダインでマルスと交戦した時点で街を守る様子が無いことから、彼の身内意識もカダインの中でさえごく限られたシンパだけだった可能性が高い。ガーネフは個人の能力的には優れていてもその見識や交流関係は狭く、政治家あるいは指導者として評価すると狭量な人物だったのではと考えられる。ゲーム中で語られる猜疑心の強い人物像は実像からそう大きく離れてはいないのではないか。ガーネフやそのシンパにとっては彼を評価しない世の中は間違っている、世界を正しい方向に導くことでガーネフの正しさを証明してみせようというのが行動原理になっているのではないだろうか。

【世界を我が物にする】
 ゲーム中の台詞によると一応ガーネフの目的は「世界を我が物にする」とはっきり示されている。この「世界を我が物にする」とは一体どういう状態なのか、そしてそれをどうやって実現するのかは深める必要がある。

 「世界を我が物にする」とは、帝国主義により大陸全土を征服し、大帝国を意のままにすることではないかと考えられる。ただし自らが皇帝になるよりは、傀儡の皇帝を立てて自身はそれを裏から操るという形ではないだろうか。
 ドルーア帝国にマケドニア、グルニア、グラを組み込み、アリティアやアカネイアを征服した過程で自らは軍を率いるのではなく主に調略で戦争をコントロールする事に徹していたからだ。王或いは皇帝になるためには自らの武勲が必要で、全くそれを得ようという動きはなかったからだ。カダイン魔道軍を率いて勝利し、グルニア黒騎士団やマケドニア竜騎士団に比肩するということも決して不可能ではないのにだ。ミロアだけは自ら倒しているが、ミロアは敵の大将ではないし、強力な魔道の力を持つミロアを除くという目的のためのローリスクハイリターンな最適解でしかない。

 ガーネフは傀儡の帝王候補を検討している。まずはメディウスを立てたが、ヒールイメージが強過ぎて統治に問題があるのと、アカネイアを制圧した後ドルーアの山奥に引っ込んで動かない(動けない?)ので傀儡の帝王として扱いづらい。グルニアのルイ、グラのジオル、マケドニアのミシェイルでは大帝国の皇帝としては器不足で早々に見切りをつけている。

【エリスとファルシオン】
 ガーネフが狙う傀儡の帝王の本命はマルスなのではと考えている。
 ガーネフの青写真はメディウスを大陸を征服した悪の帝王として仕立てあげて、マルスを操ってメディウスを倒し(アンリの伝説の再現)、マルスが帝王の座に就く。そしてその大帝国を意のままに操るといったところ。
 大事なポイントはメディウスを倒せることとその後の傀儡の帝王にふさわしい器であること。
 アカネイアを滅ぼしたあとの大陸の帝王として、メディウスを倒したマルスは適任と言える。アンリの物語の再現という物語は民衆に受け入れられやすく、後の統治を楽にするカリスマ性にもなる。ファルシオンと押さえておいたこと、マルスを泳がせていたことはそれでつながる。
 オームの杖を押さえたのはマルスが死んだ時の備えで、ファルシオンの使い手としてはコーネリアスもアリかもしれない。エリスはオームの杖の使い手でもあり、マルスを操るための人質でもあるが、エリスこそがガーネフの野望の切り札で、マルスの次の傀儡の帝王の候補としてエリスを中継ぎにして、真の本命はエリスの子を帝王の座につけて完成するのではと考えられる。

【ガーネフの失脚】
 結果的にはガーネフの計画は失敗に終わるが、マルスを大帝国の帝王にというビジョンは慧眼ではあったし、それに近い状態に歴史は行き着いている。
 ガーネフは何故失敗したのか?についてはまた次回。

この記事へのコメント

2020年01月06日 22:37
togege
とても久々の更新です。
ガーネフはとてもエネルギッシュで優秀ではあるものの、対人関係に癖のある人物で自分で思うように人に評価されない苛立ちを抱えた人物なのかなと思います。その点ハーゴンに似ていますが、彼ほど極端ではなく人間寄りというイメージです。
その失敗は起こるべくして起きた失敗ですが、そこは次回にと考えています。
肉味噌
2020年01月07日 11:07
こうして箇条書きを見るとガーネフの行動は殊更に悪事と呼べるものは少なく、あくまでも覇権争いに勝つための謀略の一環と読めます。

英雄戦争時にウェンデルは「嫉妬」がガーネフを狂わせた、とエルレーンに語りますが、この辺はマルス達「勝ち組」側の理屈であるということは差し引いて見るべきでしょう。

ところでガーネフに殺害されたアカネイアの最高司祭ミロアの人物像は本編では殆ど語られていませんが「新・紋章の謎」で語られるところでは娘のリンダが着ている露出度の高いローブはミロアが贈ったものらしく、これが史実であるとすれば相当な俗物であり、パレスの腐敗を象徴する人物ですね。
かなみん
2020年01月07日 20:56
あけましておめでとうございます。

更新待ってました。

今から読みます、とても楽しみです


今年もよろしくおねがいします。
あらた
2020年01月07日 20:57
久々の考察お疲れ様です。確かに考察を読んでいてガーネフとハーゴンは重なる部分があると感じました。後の勝者であるマルス王朝によって実は史実よりも悪役に仕立て上げられた可能性もあって悲劇的な人物かもしれませんね
ロギー
2020年01月10日 07:20
ガーネフの目的は大帝国を築き上げるは確かにあり得ますね。
それは同時に魔導師(彼に属する派閥メイン)たちが実権を握る事なんでしょうね。
何となくですが、アカネイア聖王国では貴族たちが幅をきかせて魔導師の待遇は悪くはありませんが、所詮はアカネイア聖王国の大貴族たちに頭を下げる側です。
能力があっても、王族や大貴族でない奴らは将来は先が見えますからね。

ガーネフはエリスと結婚をしていた説が以前別の記事のコメントで散見されましたが、ガーネフの野望を考えるとエリスを妻にしてマルスを操る魂胆はあり得ますね。
そう鑑みるとガーネフはどんな奴だろうとマルス王朝下では絶対に許せない極悪人として扱われるのは仕方ないですな。

そういえば、エリスと結婚したマリクの存在も胡散臭いですね。
マルスの義兄となっても、権勢を誇ったわけでないガダインの支配者になりましたが、あれは一種の島流しに近い扱いなんでしょうね。
maki
2020年01月15日 00:06
人間の魔道士と考えると、ご高説もっともという感じもあるのですが、彼が古代竜族の生き残りということはあり得ませんか?もちろん当時からの生存者ではなく比較的最近生まれたものになるのでしょうが。
 彼は別にメディウスと敵対する予定はなく、それどころか帝国における地位にも興味はなく、竜になれない階層の存在として最高位にあたる大賢者の地位こそ求めていたと考えると、最後までガトーを討とうとしなかったことも理解できます。彼の主はあくまでガトーな訳です。この場合、彼らの価値観からいって人間であるミロアが彼を差し置きガトーの後継者となったことは彼にとって屈辱だったことが予想されます。ガトーにしてみれば、人間への地位移行の一環だったのでしょうが。
 彼にとっての世界征服は魔道士界の頂点に立つということであり、カダインを支配下に収めたことはその一環ですが、ドルーアに与したことはライバルのミロアを討つための手段でしかなかったのではないかと思います。とはいえ、助っ人としての働きだけは十分にしていたようですが。ミロアを討ち、竜族の秘宝たるファルシオンを回収した時点で彼の戦いは終わったわけであり、後はガトーに自分を認めさせるだけのつもりだったとすれば、彼が積極的に動かなかったことも納得できます。エリスに関しては貴重なオームの杖の使い手を確保しただけともとれます。
 もっとも、一抜けしたはずの戦争の方から彼に迫ってきたあげく、最後はファルシオンを求めるマルスに倒される羽目になったのは計算違いだったのかもしれません。
 ただ、この考えでは、チキへの扱いがおかしくなる点が問題です。竜族の姫に対する態度としてはあり得ないわけです。ただ、全てのオーブがない状態でラーマン神殿から外に出たら不味いわけで、それを防ぐためにやむを得ずに拘束していたのかもしれません。ガトーも似たようなことをしているわけですが、彼よりも技術が劣っていてもおかしくはないでしょう。
togege
2020年01月19日 23:44
>肉味噌さん
ミロアはアカネイア大司祭でガトーの弟子でガーネフの同門、リンダの父と背景情報が多い割にその人物像が謎過ぎですよね。新情報が変態親父疑惑という。リンダは特に父を嫌った様子は無いので性的虐待などは無さそうだと思いたいのですが。

>かなみんさん
早速のフィードバックありがとうございます。今年はなるべくお待たせせずにしたいと思います。

>あらたさん
おっしゃる通り、ガーネフの人物像は勝者マルスに作られた所が大きいのではと思います。

>ロギーさん
マリクはEDではエリスと一緒にパレスの魔導学院設立に向かっているのは、重要性が高いとも取れますし、体良く遠ざけられたとも取れます。戦後のマルス政権の潜在的なライバルになれる要素はありますね。

>makiさん
ガーネフが竜族説はアリだと思いますし、また違った見方が出来て面白そうです。その場合、人間の覇権争いではなく、竜族の覇権争いが行動原理かもしれませんね。ライバルはメディウスで、チキは傀儡の王ポジションってとこですかね?案外辻褄は合いそうです。
ムカリ
2020年01月20日 13:55
初めまして。毎回記事を楽しみにしていますが、始めてコメントさせて頂きます。
 ファルシオンの継承者はマルスでは無くて、実はエリスだったのではと考えた事があります。
 理由としては、
 1:ファルシオンの入手がエリスの参加とほぼ同じタイミングだという事。
 2:取り戻した後でもマルスが普段から所持していない。
 という2点です。
 特に2の英雄戦争時に持ってない(そもそも、その直前の襲撃の際にも持っていない)のが気になる点です。
 何故なら、ファルシオンは英雄の証の1つであり、アリティアの旗印でもある剣。それを遠征の際、しかもアカネイアから任命された大義名分のある戦に持って行かないというのが気にかかります。そして、ゲーム中を通して持って行かなかった事に対する説明が無い。
 ついでに言えば子孫であるクロムは常に持っていたという点からも違和感があります。
 その点から実はマルスはファルシオンの継承者では無かったのでは?という疑問が出た次第です。
 仮にもし、マルスでなく、エリスがファルシオンの継承者なら、ガーネフがメディウスや竜族への切り札として彼女を保護していたとも考える事が出来ます。勿論、その際にはメディウスやアリティア城を占拠したモーゼスとのやり取りが大変だったのでしょうが。
 ただ、そうなると英雄戦争でエリスを生贄に捧げようとするという行為がよく分からなくはなります。もしかすると、別な継承者候補を見つけてたのかもしれません(グラの方にアリティア王家の血が繋がっていれば可能性はあるかもですが)。
 稚拙な内容ではありますが、失礼します。
togege
2020年01月20日 21:46
>ムカリさん
なるほど、マルスではなくエリスがファルシオンの継承者というのは気づきませんでした。少なくともアリティアの王位継承権がマルスよりもエリスの方が上という可能性は高いと思います。マルスがなかなか王になれず、苦労する理由ともつながりますし。モーゼスなど、ドルーアは思った以上に複雑な人間(?)関係なのではと考えています。その辺はいずれまとめます。
maki
2020年01月22日 20:24
改めて考えてみたのですが、スターライトでやられながら死なず、魂だけでも消えもしなかった段階でただの人間とは思えないわけで、実は竜族だったという可能性は十分に考えてもいいのではないかと思います。その上で世界征服を試む野心家でもおかしくはないと思います。
 ガーネフを討つためにガトーは色々協力をしてくれるわけで、二人の関係は想像以上に悪いのかもしれません。ただ、ドルーア打倒が重要だったためガーネフをあえて切った可能性はそれでもあるのではないかと思っています。
2020年01月23日 20:59
ここの考察集はとても面白いですし、興味深いです。
いつも更新楽しみにしています。
ナオ
2020年02月07日 19:12
数ヶ月前にこのサイトにたどり着いて、すでに更新停止していたのかと思ってたら、まさか更新再開されるとは……今後の更新、楽しみにしております。

さて、コメント欄でエリスが話題になっているようですが、彼女とその夫マリクは島流し等では無いと思います。
英雄戦争により急激に国土が拡大した訳ですが、そうなるとアリティアに一極化した状態での統治は困難だと言えるでしょう。
そこで、マルスは相応の能力と周囲を納得させるだけの身分を持ち、かつ信頼のおける人物を辺境伯やそれにあたる役職として要地を治めさせたのだと思います。
その一人としてカダイン辺境伯になるのがマリクですが、貴族という訳ではない彼を身分不相応だとみなす者が現れる可能性がありました。
そこでマルスは、二人が両想いで有ることもあって、結婚させる事でマリクの身分を押し上げたのでしょう。

ちなみに、辺境伯として考えられるキャラにはミシェイルとユベロが居ます。
ミシェイルは建前上は別人としてマケドニアを治めたと思われます。
新紋章での後日談がその証拠で、竜の祭壇にて突如として記録上に現れてミネルバに並び立つ戦果を上げてマケドニア辺境伯となった謎の竜騎士が、後世の研究でミシェイル本人だと判明した事が物語に反映されたのでしょう。
また、ユベロが後日談でマルスの元で勉学に励んでいるのも、彼が後の辺境伯となる為のものでしょう。

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