FE考察~帝国の時代

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【帝国とは】
 そもそも帝国とは何か?という定義の話になるが、辞書で調べると「皇帝の統治する国家」と定義されている。メディウス皇帝のドルーア帝国やハーディン皇帝の神聖アカネイア帝国がそれに当たる。
 だが政治学、歴史学用語としての帝国の定義は少し異なっていて、複数のより小さな国や民族などを含めた広大な地域を統治する国家の事を言う。この場合は必ずしも帝政ではない。帝政以前のローマが代表例だろうか。この意味での帝国を適用すればハーディン以前のアカネイア王国やもしかするとマルスのアカネイア連合王国も実質的に帝国だと言える。メディウスやハーディンの帝国もこちらの意味での帝国の条件も満たしている。

【ドルーア帝国とは】
 FE暗黒・紋章におけるドルーア帝国を再定義するするなら、「皇帝が統治するドルーア地域の国家」ではなく、「ドルーア、マケドニア、グルニア、カダイン、アリティア、アカネイアを含めた地域を統治する帝政の国家」となる。支配領域に変動はあれど、ドルーア“帝国”という言葉はドルーア地域だけでなく、周辺の支配領域も含めて語るべきではないだろうか。
 アンリの時代の旧ドルーア帝国も広大な支配領域を持っていたが、ドルーアの暗黒戦争の目的のはかつての支配領域を取り戻す、というかアカネイアに奪われたもの(本来は自分のモノ)を奪い返すことだったのではないか。マルスたちを反乱軍呼ばわりするのも、メディウス皇帝にとってみれば至極当然だと言える。旧ドルーア帝国の支配領域はカリスマ皇帝メディウスがアンリに倒された後は人間が支配するようになったがその人間を支配したのはアカネイア王国で、実質は旧ドルーア帝国の領域の支配者がメディウスからアカネイアに移っただけとも言える。
 FEの物語はドルーア→アカネイア→ドルーア→アカネイア→アリティアと“帝国”の覇権が移り変わっただけに過ぎない。ファイアーエムブレムで語られる限りアカネイア大陸では小国が乱立して小競り合い勢力争いに明け暮れる戦国時代にはなっていない。

【帝国の支配力とマルスの価値観】
 ファイアーエムブレムではドルーア帝国に属する兵士はグルニア兵、マケドニア兵などと出身地域で表記されている。何故だろう?

 色々考えられるが、まずメディウス皇帝を頂点とした帝国の支配体制が案外緩く、各国の独自性が認められていたのではないか。形式上はメディウス皇帝を頂点とした帝国の条件を満たしてはいるものの、その実態は打倒アカネイアという共通の目的で手を結んだ“連合国”と言う方が正しい。

 また、ニーナ&ハーディンには滅ぼすべき仇敵ドルーアと自国民になるグルニアら他の国は区別して然るべきという方針もあった。父なるアカネイアに反旗を翻したのは邪悪で強大なメディウスとガーネフに脅され、あるいは一部の野心家に唆されての事で、諸悪の元凶が除かれた今、ともに聖王国アカネイアの威光の下、秩序と繁栄を取り戻そうというのが、戦勝国の書いたシナリオであった。暗黒戦争終結後はドルーアを除いた敗戦国(グルニア、マケドニア、カダイン、グラ)は王家の存続を赦され、ハーディン統治下のアカネイアの一部として組み込んだ事実があるからだ。

 暗黒皇帝として後世に汚名を残したハーディンではあるが、本来は各国の文化や価値観を尊重した体制を目指していたのではないか。オレルアンの遊牧民の文化や風習に馴染んだハーディンがアカネイア貴族的な価値観を押し付けるような強圧的な支配を望んだとは考えにくい。(参考:ハーディンの理想)

 暗黒戦争でのニーナの同盟軍の正義はドルーア帝国による支配からの解放にあった。解放の対象をドルーアに与したグルニアらも含めた事が、同盟軍の逆転勝利の要因になった。英雄戦争ではマルス得意のプロパガンダ戦略で、皇帝ハーディンのイメージをかつてのドルーア皇帝に重ねたことで、成り上がり皇帝に反感を持つ者などハーディン体制で何となく良い目を見られなかった層を“正義”の側に引き込んだ事が勝利の要因になった。
 アカネイア連合王国の盟主となったマルスの方針は、ほとんどハーディンの当初の構想を引き継いだものだったのではないか。だとすると、マルスはハーディンの後継者だとも言えるのではないか。

【まとめ】
・ドルーア帝国とはメディウス皇帝を頂点とし、アカネイア大陸全土を統治する国家。
・アカネイアはドルーアの支配地域を引き継いだ実質の帝国。
・ただしドルーアの苛烈な支配のトラウマがあるため、大っぴらには言えない。
・暗黒戦争は大陸の支配者としての地位をドルーアとアカネイアで奪い、奪い返す戦争だった。
・周辺諸国やその民衆はドルーアだろうがアカネイアだろうが帝国的な支配は望んでいない。

 ファイアーエムブレムが語る主張は、マルスは帝国の時代からの解放者だというプロパガンダなのかもしれない。真実はどうあれ・・・

この記事へのコメント

togege
2016年02月23日 22:42
今回は帝国という言葉の意味という切り口から考察しました。
そもそも帝国とは?という前提を踏まえないと、このゲームの登場人物の行動の理由を説明出来ないので、地味ながら重要だと思います。
ファイアーエムブレムってゲームではホントに皇帝って言葉のイメージ悪いですね。
ロギー
2016年02月24日 21:46
ここら辺はローマ帝国の始祖であるアウグストゥスが皇帝を名乗らず共和政ローマの第一人者(プリンケプス)を名乗ったのと似てますね。
マルスは実質的な皇帝でしたが、民衆はハーディンやメディウスへのアレルギーのせいでアリティア連合王を名乗ったんでしょうね。
名無し
2016年02月25日 16:54
メディウスは最初から皇帝だったけど、ハーディンについては暗黒竜の後日談はアカネイア皇帝ではなくアカネイア王だったんですがどういうことかな。いつ国王から皇帝になってしまったんでしょうか。暗黒戦争から英雄戦争の間なのは間違いないですが。ハーディンは強圧的な支配は望んでなかったのは間違いないと思います(グルニアを潰せればそれで良かったと本編でも言っていた)。しかし、ファイアーエムブレムがマルスに渡ったり、アカネイア貴族との対立、アリティアとの戦いで予想外の連敗(紋章の謎二部8章では肝心のマルスや重要人物を殺す又は捕まえれなかったため引き分け)、アカネイアの一部の人(アストリアやジョルジュ)の裏切りと反乱などが原因で国民や他国により高い税をとらざる負えなくなり悪循環になったんだと思います。悪循環についてはアカネイアでの支持率が大幅低下、高い税や強圧的な支配のせいでグラやオレルアンにも支持や同盟、一方的に輸入と輸出が打ち切られるなど。ハーディンが狂っていたか分かりませんがもうかつての理想を実現するのが無理な状態だったのでしょう。
togege
2016年02月25日 21:38
コメントありがとうございます。忙しさに負けず、コメントは返して行きたいと思います。
>ロギーさん
ハーディンとマルスの関係はカエサルとアウグストゥスを重ねている部分が大いにあります。広大なアカネイア(ローマ)を統治するには絶対的な中央集権が必要で、それを正直に実践したために恨みや恐れを抱かれ殺されたハーディン(カエサル)と、同じ理想を実現するために、彼にない偽善を駆使して巧妙に絶対権力者になったマルス(アウグストゥス)ですね。
>名無しさん
ハーディンは王のままでは、かつてのカルタス王と同等の権限しか持ち得ず、その限界を知っていたから、より多くの権限を得て理想を実現するために皇帝になったのでしょう。その皇帝の称号の正統性について語るのは考察一本分の話になってしまいますが。
名無し
2016年02月25日 23:09
>togegeさん
コメントを返してもらいありがとうございます。もしそうだとしたら、哀れですね。皇帝になり中央集権などを無理矢理やったことが理想を実現させるどころか彼の破滅への一歩ですから。アカネイア国王又はオレルアン国王から少しずつ価値観を変えていった方が上手くいったと思います(それを実現したのがマルスです、しかも連合王国の盟主でやっているんだから見た目やイメージと違ってやってることはすごいです)。
cvhiryuu
2016年02月29日 00:28
ご指摘の通り、最初に「皇帝」を名乗ったのはメディウスです。

何故、メディウスは「皇帝」を名乗ったのか?

メディウスの生まれ育った時代は神竜王ナーガの時代です。
当時はメディウスが「地竜の王族」とされている事から、神竜族、地竜族、火竜族等の亜種毎に王を頂いて、その王の会議の議長役をナーガが担っていた、と考えられます。
ナーガの決定も神竜族以外には殆ど強制力が無く、亜種の王や個人の意向が優先された事は竜人化の過程を見ても明らかです。

マムクートになった竜族は元来と比べるとパワーの安定性で大きく劣化しています。
短期決戦では強くても、人間や発狂した竜族の波状攻撃を受ければ、マムクートは脆いという事をナーガの盟友としてメディウスは直視せざるを得ない立場にありました。
竜族最強の神竜族ですらマムクート化してしまえば、長期戦には耐えられなかった。
この戦訓と、実際に個々のマムクートが人間に迫害されて劣勢を強いられていた、ナーガやメディウスの真実を知る人間達もアカネイアに根絶されそうになっている、と云う当時の現状から、メディウスはかつての「王の中のリーダー」止まりだったナーガの立ち位置を超える「皇帝」と云う地位と、その下に一元化された指揮系統の必要性を悟ったのではないでしょうか?
魔竜族、火竜族、そしてマムクートに味方する人間全体のリーダーとして此等の雑多な戦力を組織的に運用しなければ、物量に勝るアカネイアには苦戦を強いられる、と。
cvhiryuu
2016年02月29日 00:28
暗黒戦争でもメディウスはマムクートと各種兵科の人間の護衛を相互支援させて運用しています。
現代の我々には当たり前ですが、知恵を無くした相手に消耗戦を強いられた竜族やそれより圧倒的に劣る文明しか持たない人間しか居なかった第一次ドルーア戦争時代には画期的な戦術です。
火竜族、魔竜族、そして人間全体のリーダーとして「皇帝」メディウスが位置しているからこそ可能な話です。

このアイディアを自分一人の頭で考え出して、そんな知恵が浮かばない周囲に納得させたメディウス・・・実はとんでも無い頭脳の持ち主なのでは!?
MM
2016年03月02日 00:41
今回も楽しく拝読させてもらいました。
アカネイア大陸における帝国的な支配ですが、英雄戦争後のマルスは王家や皇帝の権威に代わって、宗教的な権威を利用したのではないかと考えました。
ラーマン神殿とナーガ神話に見られるように土着信仰としてのナーガ信仰は存在するようですし、未来のFE覚醒の世界では他大陸にまでナーガ信仰と神竜の巫女チキの影響力が及んでいます。
このことから教皇が新君主に王冠を授けていたように、マルスは宗教的権威として喧伝した神竜チキやガトーから大陸の統治権を委ねられたという形で、自身の正当性を主張したのではないでしょうか。この方法ならメディウス以外の竜族も宗教上保護されるべき存在として人対竜の対立を解消してチキ達を守ることもできますし、本物の神に権力を授けられた正当な王として王権の簒奪者という誹りも免れることができます。
戦後のマルスは権力の正当性の維持によって、覇権を巡る争いの再発防止に努めていたのではないでしょうか。
ロギー
2016年03月02日 18:43
MMさん、つまり16世紀から18世紀の欧州国家体制である絶対君主制の根拠となった王権神授説ですね。
確かにこれならばアカネイアの秩序を凌駕できますね。
それに神龍族はマルスに好意的で保護してもらえるならば、干渉はしないでしょう。
因みに教皇はチキになりますかね?
togege
2016年03月02日 23:26
>cvhiryuuさん
メディウスって実は結構凄い人なのかもと、最近自分の中の評価が上がっています。近いうちに、この辺の考察は書く予定です。

>MMさん、ロギーさん
マルスのアカネイアを超越した権力の根拠はまさに神の竜を味方につけた事に尽きますね。ゲーム中ではそこまで神様神様と持ち上げているようには見えず、戦術ゲームの駒の一つという扱いですがね。この辺の考察を書くのは、ちょっと先になりそうです。
ロギー
2016年03月03日 20:04
マルスの偉業は先祖のアンリはおろかアカネイア王家始祖アトラ一世を遥かに凌駕しそうですね。
そうなるとマルスはFE世界史最高の帝王だったかもしれません。
さしづめ我々の世界で言うとマケドニアのアレクサンドロス大王やローマ帝国のカエサル、後漢の光武帝や唐の太宗やオスマン帝国のスレイマン大帝のような世界帝国の覇者に近い存在でしょうね。
そうなるとマルスの闇の部分は何なのですかね?
私はマケドニア王家、グルニア王家、アカネイア王家を根絶やしにしたことだと思います。
何ていうか、マルスは後世偉大な救世の帝王として賞賛されてますが、同時に自分の支配に異を唱える連中には情け容赦ないと思います。

また、ナバールはかれは非実在人物だと思います。
何ていうかマルスに使い捨てされた存在ですかね。
名無し
2016年03月04日 00:40
ナバールも非実在人物か使い捨てですか...。実在と非実在はどう分けるのでしょうか。僕的には実在しているのはロベルトとベルフとライデン(ただし確定してるのはアカネイア戦記のみ新紋章の謎は事実ではない可能性が非常に高い。参戦場所が明らかにおかしい。)、アカネイア騎士団、タリスの戦士たち、オレルアン騎士団、カダインの人たち、ロレンス、グルニア王家、マケドニア王家、アカネイア王家、シーザとラディなど。非実在なのはシリウス、レナ(デビルマウンテンに護衛なしで来たり、リカードと一緒に盗みをやっている。メディウスの生贄の中で唯一王家ではない。実在したけど嘘なのかもしれない。)、ジュリアンとリカード(盗賊って時点で怪しい。)、二部ガーネフ、フィーナ(踊り子だから。)、サムトー(ラングは本当にこんなの雇ったのか。何故歴史に残っているのか。オグマナバールの凄さを引き立てるためか、何か重要なことをしたのか。)など。

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